帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「さようなら夕子よ、月の妹よ」

「さようなら夕子よ、月の妹よ ー満月超獣ルナチクス登場ー
ウルトラマンA』制作第28話
1972年10月13日放送(第28話)
脚本 石堂淑朗
監督 山際永三
特殊技術 佐川和夫

 

満月超獣ルナチクス
身長 58m
体重 6万3千t
かつて月のマグマを全て吸い尽くして死の砂漠に変えると、次は地球にやって来て同じようにマグマを吸い続けていた。年に一度、10月の満月の夜に地表に現れる。
口から白いガスや火炎を吐く。目玉を爆弾にして飛ばす。マグマを吸収して一時的にパワーアップする。
最後はエースに溶岩の中に投げ込まれて焼死した。
名前の由来は「ルナ(月)」かな。ウサギ跳びが可愛い。

 

月星人
ルナチクスに月を死の砂漠に変えられて殆どが死に絶えてしまい、生き残った月星人はわずかな太陽エネルギーを元に冥王星で生き延びている。
夕子は打倒ルナチクスの使命の下に地球に送られ、ルナチクスを倒した後は月を元の緑溢れる星に戻す為に月に帰った。

 

物語
ある満月の夜に超獣ルナチクスが現れた。それと前後して夕子が不可解な行動を取る。
実はルナチクスはかつて月を滅ぼした超獣だったのだ。そして夕子は……。

 

感想
視聴率が予想より取れなかったからとか、合体変身がごっこ遊びに取り入れづらかったからとか、星光子さんが妊娠したとか、スタッフと出演者が揉めたとか、脚本家が合体変身は使いにくいと言ったとか諸説入り乱れているが結局のところ本当の理由は分からずじまいな感じがする南夕子の退場。ある意味、ウルトラシリーズ最大の謎と言える。

 

満月とクロード・ドビュッシーの『月の光』を背景に展開される今回の話。こう言う幻想的な雰囲気は『A』ならではのもの。

 

月からの指令を受ける夕子。ガイア理論のように月自身の意思を聞いたようにも見えるが月は既に死の砂漠になっているのでその可能性は無いかな。一足先に月に帰っていた月星人からのテレパシーを受け取ったと考えるのが妥当かもしれない。

 

早く変身しようと言う夕子に対して星司はまず超獣の正体を掴んでからと答える。やはり主人公が簡単に変身しないのは戦う前に相手の情報を集める為のようだ。

 

大蟻超獣対ウルトラ兄弟」と違って地底に潜れるようになっているエース。やはり訓練していたのだろう。数々の戦いを経てエースも成長している。

 

燃えたぎるマグマの中や爆発する火山を舞台にした戦いはなかなか見応えがある。3分はとっくに超えている気がするが……。

 

ルナチクスの出自について。
かつてヤプールは月を攻め、その時にルナチクスを使っていたと考えるのが自然。月を滅ぼした後、ヤプールはルナチクスの事を放置したので、ルナチクスは自分の意思で新たなエネルギー源である地球を狙ったと言ったところであろうか。

 

星司は夕子が月星人である事を知らなかった。やはり二人の記憶は共有されていないらしい。

 

月星人は現在は冥王星で暮らしているとの事。『セブン』の「プロジェクト・ブルー」に登場したバド星人は冥王星人を根絶やしにしたと言っていたので、冥王星人が滅ぼされた後に月星人が冥王星に移住したと考えられる。(まぁ、バド星人の言っていた事がハッタリだった可能性もあるが)

 

ルナチクスを倒した夕子は月星人としての使命を果たす為に地球を離れる事になり、自分のウルトラリングを星司に託す。
ウルトラリングを託された事で星司は夕子の意思も引き継ぐ事になった。世代交代ではないが「意思の引き継ぎ」と言う『A』のテーマがここにもあったと言える。

 

これまでは夕子との合体変身だったが、夕子が離れた事で星司は単独でエースに変身する事となった。これまでの星司はハヤタ隊員やモロボシ・ダンや郷秀樹に比べてヒーローとして未熟な部分があったが、そこを夕子がフォローする事で成り立たせていた。今までは2人で助け合ってヒーローとなっていたのだが夕子の離脱によって星司は自分一人でヒーローとして戦わなければならなくなった。これは星司の成長を促す事になるのだが、その一方で星司の孤立を深めていく事にもなった。

 

ルナチクスを倒した夕子は月再建の為に他の月星人が待つ月に帰る事になる。
月星人に戻った夕子は服が変わってロングヘアーになる。ロングヘアーの夕子が美人。

 

今回の話は戦闘シーンが長い分、ドラマ部分が短い。特に夕子とTACのドラマが殆ど無かったのは残念。地球と月を同じ太陽系の兄妹と言うのなら、やはり地球人TACが月星人・南夕子に協力する展開も欲しかった。最後に何の前触れも無しに夕子は実は月星人だったとTAC隊員に明かす展開は不満がある。

 

『TACの歌』と共に夕子の隊員服と黄色いスカーフが燃やされる。こうしてTAC隊員・南夕子はいなくなり、以降、夕子がTAC隊員として登場する事は二度と無く、以降の夕子はあくまで月星人として登場する事になる。(最終回「明日のエースは君だ!」のラストでも星司が「北斗隊員」と紹介されているのに対し夕子は「南隊員」ではなく「南夕子」と紹介されている)

 

『TACの歌』を歌う場面で最後が星司ではなくて吉村隊員だったのが謎。吉村隊員役の佐野光洋さんが当初は星司を演じる予定だったのが関係しているのかな?

 

今回の話は『竹取物語』が下敷きになっていると思われる。地球に送り込まれた夕子は竹の中にいたところを地球人に発見されたとか?

 

夕子の事を星司は「妹」と言った。まさか本気でただの妹と見ていたとは思えない。ではあの時の星司は夕子にどう言えば良かったのか? 考えてみたが自分には思いつかなかった。夕子と星司、この二人の関係はとても難しい。

 

こうして『A』を退場した夕子。やはり今回の話の前に夕子が月星人だったと言う伏線が無いのが残念。(こじつけられない事は無いが……)
メインライターである市川さんが作った企画書『ウルトラハンター』では夕子の名前は「南七子」で、北斗星司と合わせて「北斗七星」になるようになっていた。それが「南夕子」に変更された理由は分からないが、夕子と言う名前から「七夕」が連想され、実際に織姫と牽牛のように夕子と星司が離れ離れになってしまうとは事実は小説よりも奇なりである。

 

「TAC隊員・北斗星司は、これからは一人でウルトラマンエースになる。いや、ならなければならないのだ」。