帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「ノンマルトの使者」

「ノンマルトの使者」
ウルトラセブン』制作第41話
1968年7月21日放送(第42話)
脚本 金城哲夫
監督 満田かずほ
特殊技術 高野宏一

 

地球原人ノンマルト
身長 170cm
体重 70kg
真一の話によると、ずっとずっと大昔から地球に住んでいた先住民で人間に海へと追い出されてしまったらしい。人間が海底も侵略し始めたので警告と報復を兼ねてガイロスと原潜グローリア号を差し向けてきた。
地球防衛軍の隊員から真一を助ける時に光線銃を使っている。
ハイドランジャーの攻撃で海底都市ごと全滅した。
本当に地球の先住民だったのかは謎だがM78星雲では地球人の事を「ノンマルト」と呼んでいるらしい。
名前の由来はローマ神話の戦いの神「マルス」に否定の意味の「ノン」を付けて。

 

蛸怪獣ガイロス
身長 30m
体重 1万t
ノンマルトが差し向けた怪獣。
最初、ウルトラ警備隊はガイロスがノンマルトだと勘違いしていた。
アイスラッガーで倒される。
怪獣デザインの一般公募で銀賞を獲得した全身目玉の「ガイロス星人」がモデルになっている。 

 

物語
「人間が海底を侵略したらノンマルトが怒るよ」と警告する謎の少年・真一。
実際に海底開発センターで事故が起き、ダンとアンヌ隊員は真一を捜す事になるが……。

 

感想
ウルトラセブン』や金城さんを語る上で避けて通れない話の一つ。

 

ウルトラセブンは何の為に戦っているのか?
おそらく「侵略者の魔の手から地球の平和を守る為」だと思われるが、もし、今の地球人が実は侵略者だったら? ウルトラセブンは戦う理由を失ってしまう。
ここで重要になるのがアンヌ隊員が言った「私は人間だから人間の味方よ」と言う台詞である。宇宙人ウルトラセブンの立場からすれば今回はノンマルトの味方をするか、事件そのものに関わらないか、あるいはノンマルトと地球人の間に入って調停をするかしなければならない。しかし、地球人モロボシ・ダンとすれば、理由はどうあれ自分と同じ地球人の危機を見過ごす事は出来ない。戦わなければならないのだ。
事情を知っていながら侵略者の可能性がある今の地球人に荷担してしまったダン。しかし、地球人と同じ罪を犯した事でダンは地球人の一員になる事が出来たとも考えられる。

 

謎の海底都市を見付けたキリヤマ隊長は「ノンマルトの海底都市!?」と驚くがすぐに「もし宇宙人の侵略基地だとしたら放っておくわけにはいかん」と別の可能性を考える。そして「我々人間より先に地球人がいたなんて……」と衝撃を隠せないが最後は「いや、そんな馬鹿な……! やっぱり攻撃だ」として海底都市に向けてミサイルを発射する。
あの海底都市がノンマルトのものかどうか不明だし、仮にノンマルトのものだったとしても実はノンマルトは宇宙から来た侵略者で先住民の話は嘘だった可能性もある。それならば、しっかりと調査をした方が良かったと思うが、万が一、ノンマルトの話が本当で今の地球人が侵略者だった場合、今の地球人達がこの星で生きていく正統性が揺らいでしまうので、その万が一を恐れてキリヤマ隊長は全てを消し去ってしまったのだろう。
海底都市を全滅させたキリヤマ隊長は「ウルトラ警備隊全員に告ぐ! ノンマルトの海底都市は完全に粉砕した! 我々の勝利だ! 海底も我々人間のものだ! これで再び海底開発の邪魔をする者はいないだろう!」と叫ぶ。「宇宙人の侵略基地の可能性があるから攻撃する」と言っていながら全てが終わったら「ノンマルトの海底都市を粉砕した」と言ってしまったところにキリヤマ隊長はあの海底都市の正体を本当はどう考えていたのかが分かる。
ノンマルトは本当に地球の先住民だったのか、今の地球人は本当は侵略者だったのか。全ては永遠の謎となってしまった。真実とは恐ろしさを含んでいるもの。だから人間は真実から目を背け、真実を目の前から消し去り、代わりに自分に都合の良い真実を作り出してしまう。

 

このキリヤマ隊長の判断は批判を受ける事が多いが、現場だけで判断して良かったのかどうかの疑問はあるが、彼の立場を考えるとノンマルトの存在を消してしまう以外に選択肢は無かったような気がする。

 

ノンマルト(本当はガイロス)を倒した事を報道班を通じて、TV、新聞、ラジオに知らせようとする場面があり、地球防衛軍はちゃんと情報公開しているんだと思ったが、ノンマルトが地球の先住民だった可能性がある事についてはマスコミには一切明かされないんだろうな。

 

ノンマルトの海底都市を宇宙人の侵略基地の可能性があるとして攻撃したキリヤマ隊長にも問題があるが、ノンマルトも真一を使って警告を発するだけだった。両者とも相手の事を信用せず、恐れ、ただ自衛の為の攻撃をするだけだった。今回の悲劇の一番の原因は両者が相手とのコミュニケーションを取ろうとしなかった事だったと思う。

 

プライベートで二人きりで海に行っているダンとアンヌ隊員。これはデート以外の何ものでもない。キリヤマ隊長も知っていると言う事は二人の仲はもはや公認なのだろうか。

 

小学校に聞き込みに行った時に子供達がポインターに群がる場面がなんか好き。

 

ウルトラ警備隊とガイロスの戦いは『ウルトラマン』の「ウルトラ作戦第一号」でベムラー相手に科特隊が行ったウルトラ作戦第一号を思い出すものだった。そう言えば、真一は2年前に死んだと言う設定だが、今回の話から2年前となると「ウルトラ作戦第一号」が放送された辺りになる。

 

ガイロスは怪獣デザインの一般公募で銀賞を獲得した「ガイロス星人」がモデルになっている。 全身にある目玉を吸盤に変えて蛸怪獣にしたのはなるほどと思うが、蛸そのままのガイロスより全身目玉のガイロス星人の方がオリジナリティがあって面白かったような気がする。

 

今回のノンマルト事件を後に再び取り上げたのが『平成セブン』の「わたしは地球人」である。ただし、スタッフが違うので、ノンマルトに対する解釈も今回の話と同じとは言い切れない部分がある。

 

今回の話は金城さんにとっての沖縄問題が込められていると言う説があるが、当時のスタッフはその説を否定している。どちらにせよ、話を見て色々と議論が出来るのがウルトラシリーズの面白さの一つであると自分は思う。